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1 借地借家紛争の色々
借地借家法紛争は法律紛争の中でももっともポピュラーな部類です。とはいえ、幅も奥行きもあり、論ずべき点も沢山あって、なかなか一筋縄ではいきません。
土地の貸し借り、あるいはマンションや戸建ての貸し借りに際して締結する契約書にはいろいろなことが書かれています。日本語が読めればとりあえず理解できるような内容から、専門的な説明を聞かないとわからないことまで、いろいろです。
借地契約なら、これは弁護士に内容を点検してもらったほうが無難です。マンションや戸建ての賃貸借契約でも、可能であれば、読んで不安なところは弁護士に尋ねることが望ましいですが、そうもいかない時は仲介業者に十分、説明を求めて下さい。
勿論、契約書の内容が大変重要なことはいうまでもありませんが、結局は、貸し手、借り手の人間性が契約関係の良否に重大な影響を及ぼします。
幾ら立派な契約書を調印したところで、借り手がデタラメな人間であれば、何の役にも立ちません。ある事例では、結局、最後は、裁判で判決をもらい、強制執行しなければ退去させることができませんでした。家主は大損害です。
このケースでは、家主が費用対効果を考え、なかなか弁護士への相談に踏み切れないまま、いつの間にか半年1年と滞納家賃がかさんでしまったため、立ち退き請求が遅れ損害が大きくなってしまったのです。
また、別の事例では店舗を借りたテナントが、使い方に対して家主があまりに神経質で、うるさいことを言うのに嫌気がさして退店し、大きな損害を残してしまった例がありました。
2 家主と店子のニーズ
貸し手は、いつも賃貸物件を埋めて、できるだけ高い家賃を取りたいと希望し、きちんと家賃を払ってくれて値上げや更新の問題についてうるさいことを言わず、部屋を大切に使ってくれる常識的な借り手を大歓迎します。
借り手は、なるべく安い家賃の部屋で、安全と静けさ(ときには自分が騒音のもとになっていることもあるが)が満たされることを希望し、修理箇所が見つかればすぐに直してくれて、隣の部屋がうるさければすぐに注意してくれるフットワークの良い家主、うるさいことを言わない家主、自分の私生活には一切関心を持たず介入しない家主を大歓迎します。
お互いの都合はここに書いた通り矛盾する点が多いので、貸し手と借り手のニーズが衝突する危険は常にあります。
それを表面化させないよう互いに上手に賃貸関係を続けるか、言いたいことは相手に遠慮なくドカンと突きつけるか、このあたりの考え方如何で紛争が始まるかどうかが決まります。
3 安心、納得
賃料の滞納、立ち退き問題、家賃の値上げ・値下げ問題、更新料の問題、費用のかかる修繕問題などを別にすると、貸し手と借り手のトラブルは互いに大きなストレスではあっても、弁護士に費用を払ってまでして取り組むには躊躇を覚えます。
家賃の値上げ、値下げ問題も、金額の幅が小さければ弁護士費用をかけてまでして解決するべきかどうか、決断は鈍ります。
もっとも借地借家問題のトラブルを抱えた場合、法律的にはどのように考えることが正しいのか、この点を理解しておくことは、ストレス解消に役立ち、直接交渉するときのヒントになりますので、弁護士に話を聞く機会をもたれることをお勧めします。
4 立ち退き問題
借地借家の問題でもっとも深刻なのは、建物の老朽化を理由とする立ち退き問題です。
地主や家主にとっては、立ち退かせたい、出て欲しいという希望があるのに借り主が応じてくれない場合です。
借地人や借家人にとっては、出て行きたくないのに立ち退きを迫られ、怖そうな人が交渉にやってきた場合などです。
この問題は、出て行かなければならないのかどうか、という法律問題と、出て行く場合に立退料や明け渡し料は幾らもらえるのか、という金銭問題の二面があり、通常はこの二つが絡み合って交渉が進みます。
明け渡しや立ち退き請求を正当化するために、どれだけの立ち退き料が必要かという形で法律問題と金銭問題が一体となって現れます。
総じて言えば、バブルの頃は借地、借家のいずれでも、立退料はうなぎ登りに高額となりました。しかし平成10年代に入ると、明らかに潮目が変わったように感じます。
出て欲しい事情と、出されては困る事情を、いろいろ出し合って議論しますが、結局、お互いの事情が金銭勘定に収斂されていきます。
解決を急ぐ事情があるかどうか、問題を抱えていることから来るストレスに耐えられるかどうか、なども立退料交渉に影響します。
立退料は、家主にとっては立ち退かせた後の資産運用計画(例えば更地にしてビルを建てるとか、売って現金を手にする等の資産置き換え等)に関する先行コストであり、建物の老朽化を強調するなどして立ち退き料を低く抑えようとします。
借家人にとって立ち退き料は、店舗であれば他に移って新たに開業するための立ち上がり資金であり、或いはこの機会に仕事を止めるともなれば、これと引き替えに手にする退職金に似た金銭といったところです。
また賃貸マンションであれば引っ越し費用や引越に伴う不便不利益を埋め合わせる金銭といったところです。
借地人にとって立ち退き問題は借地権という財産を現金化するチャンスという側面と、生活環境の変更を余儀なくされるはなはだ迷惑な問題であるとの側面があります。
借地、借家のいずれの立ち退き問題でも、借主は更地価格を基準に借地権価格、借家権価格を算出して立退料の交渉をします。このような計算が通用するかどうかはケースバイケースですが、更地価格を基準とした立ち退き料の計算は金額が高くなるので簡単には妥協が成立しません。
店舗の場合であれば営業補償の要求もでます。営業補償と借地権価格、借家権価格の関係もいろいろです。
立ち退き問題は立ち退き料が数十万という事例から数億にも上る事例まで色々ありました。
生活、営業を防衛したい借り手と、お金を武器に不動産の有効利用を図りたい貸し手との経済戦争にも見えます。
貸し手、借り手の何れにとっても、立ち退き交渉には法律上の根拠が必要であり、また独特の腹の探りあいや、計算がありますので、精通した人に交渉を任せることが安心です。
5 借地非訟という世界
長いこと土地を借りていますと借地人にとって色々、新たな必要性が生じてきます。家の大改造や木造モルタル造りから鉄骨鉄筋コンクリート造への立て替え、あるいは借地権の他への譲渡などがその典型です。
しかし地主はおいそれとこれらを認めてくれません。その場合に地主の承諾に代わる裁判所の許可をもらう手続きが借地非訟(しゃくちひしょう)手続きです。
法は借地権を強固な権利、財産価値のある権利として色々な保護を与えています。借地非訟手続きによる借地条件の変更は実に強力な借地権保護であり、裁判所の許可によって借地上の建築物に関する借地人の自由度を高め、借地権の換金化を可能にしました。
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