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1 不動産にまつわる紛争の類型
不動産にまつわる紛争をざっと考えてみます。
(1) 不動産の売買取引を巡る売主と買主間の紛争
(2) 売買取引を仲介する不動産業者とのトラブル (3) 道路問題、建ぺい率容積率、地目変更、農地法の許可手続きなど役所も絡む紛争 (4) 不動産が担保として利用されている場合に金融機関が絡む紛争 (5) 立ち退きを巡り地上げ屋や暴力団が絡むトラブル (6) 土地建物の有効利用に関する問題 紛争の内容は実に様々であり、弁護士に求められる知識や経験も自ずと多種多様になります。
2 不動産売買
(1) 売主の関心、買主の関心
不動産の売主にとっては
ア 少しでも高い値段で売れるか イ 代金は約束の期日に確実に支払われるか ウ 後日、売った不動産に欠陥が見つかったときに負わなければならない瑕疵担保責任など、売却した後の責任がなるべく少ないこと などが気になります。
買主にとっては、
エ 確実に登記と引き渡しを受けることができるか オ 土地の境界が争いなくはっきりしているか カ 土地建物についている抵当権等の登記が代金支払いまでに抹消されるか キ 手付金を打ったけれど土地や建物の中にいる人は決済日までに確実に出てくれるか ク 購入した土地や建物に欠陥がないか ケ 将来、雨漏り、シロアリ等の被害が出るなど期待に反する事態が発生した時に売主や仲介業者は責任をとってくれるか コ 重要事項説明書は何で重要なのか、どこを注意して読めば良いか など心配だらけ、わからないことだらけです。 (2) 幸運だった例 では、弁護士なら誰でも、これらの不安や疑問に答えて適切な対処を助言できるかといえば、答えはノー です。一つの例を申します。 結婚したて若手弁護士が、住宅ローンと、親の協力を得てささやかなマンションを購入しました。契約書の作成から住宅ローンの手配まで、全ては知り合いの不動産屋さんがやってくれました。 駆け出しの弁護士は、ただただ、不動産屋さんのお膳立てに乗っかっていただけです。それでも何も問題は起きず、新婚さんはそのマンションで楽しい新婚生活を送って十分に満足し、数年後、購入金額よりも高い値段でマンションを売ることができました。 関わった不動産屋さんがしっかりしていたこと、時代がよかったこと、マンション選びに目利きが働いた事、そして何よりもいえることは幸運だったということです。 駆け出し弁護士はそれから先、不動産に関する沢山のご相談を受けることで、様々な事を学び不動産取引の難しさを体験しました。それだけに、新婚時代のマンション購入体験を思い出すと、改めて不動産取引に無知であったことを痛感し、何事も起きなかったことに感謝するばかりです。 (3) 売買契約をしたが、止めたくなった 不動産売買は私たちにとっては人生でもっとも高額な取引と言えましょう、売主、買主共に、徹底的に自分の利益や都合に合わせた主張を実現できる法的見解を求めて弁護士を訪ねることがあります。 売買契約が成立して売主に手付金が支払われた、ところが買主は気が変わってしまった、もっと安い物件がある、他に気に入った物件がみつかった、さあ、そうなると、買主はどのようにして手付金が没収されないように取引をご破算にしようか悩みます。 その逆の例では、売主は安く売ってしまったと後悔し、手付金を返すだけで契約を解消したいと願う場合があります。 どちらの相談も、なかなか難しい問題ですが、詳しく事情をお聞きすることによってヒントが見付かるかもしれません。しかし、こじつけの理由では駄目です。契約を解消できるかどうかは、公平公正の観点からみて、手付金による縛りから解放されることが正義にかなうと考えられる事情があるかどうかにかかってきます。
3 困った仲介業者
私は誠実に不動産業を営んでいる業者の方々を何人も知っています。しかし困ったことには、いい加減な仲介業者がなくなりません。とにかく取引を成立させて仲介手数料を稼ごうと、調子の良いことを言ってお客さんを誤解させ、取引に誘い込んでしまうような業者がいます。 このような困った仲介業者に誘い込まれて契約をしてしまった場合に、手付金による縛りから解放されるかどうか、支払い済みの仲介手数料を返してもらえるかどうかというのはよくあるご相談です。
4 道路問題は大切です
土地にとって、どのような道路に接しているかは決定的に重要です。宅地は間口2メートル以上で幅員4メートル以上の道路に接していなければ家が建たないのが原則です(この原則は単純ではありませんのでご注意ください)。 世の中にはこの基準に合わない敷地が沢山ありますが、それでも、一定の条件を満たしていれば家が建てられるようになっています。 接している道路との関係で、この敷地に家が建つかどうか、どのような家が建つかを確認するには、役所の建築課に出向いて調査しなければなりません。これはなかなか厄介です。時には判断をめぐって役所と紛糾する場合もあります。 家を取り壊してしまってから、道路問題が障害となって建築確認が得られずそのため家を建てられないという大変な事態になることがあります。しかも更地にしてしまったために固定資産税が高くなってしまい踏んだり蹴ったりという例もありますので十分にご注意下さい。
5 不動産担保の借入とオーバーローン
不動産は資金調達のための担保として頻繁に活用されます。 銀行が貸してくれるのを良いことに、どんどん借り込んでしまい、気が付いたら不動産の価値以上の借金となっていて、返済ができなくなってしまうケースもあります。 他に手だてがなくなれば、不動産を売って銀行借入を返済するしかありませんが、銀行は、不動産を売った代金で返しきれない借金の返済をどうするのかと問いただしてきます。 残った借金の返済のあてがない場合、不動産を売れず、借金は返せないという苦境に追い込まれる方がいらっしゃいます。 しかしこのような場合、事情をきちんと話し、とりあえず不動産を売却して借金をできるだけ支払い、借入残金を小さくして残った借金の返済方法を銀行と相談する事が可能です。 このような解決を図るためには、銀行が納得するような解決の組み立てをして説明する必要がありますが、銀行の発想や事務処理方法を飲み込んでおきませんと、銀行側とコミュニケーションが取れず、なかなか不動産の売却に進めない困った事態となることもあります。
6 不動産の有効活用と立ち退き交渉
今はあまり聞かなくなりましたが、バブル華やかなりしころは、地上げ屋が金持ちのヒーローとしてもてはやされたこともあります。 昔を振り返ると、依頼者が先祖伝来の土地を失わずに、億単位の相続税を支払う資金捻出のため、地上げではありませんが来る日も来る日も、依頼者の所有する家作を空にするため立ち退き交渉を行った時代がありました。 親から都内に沢山の土地とその上に建っているアパートや長屋を相続された方がいらっしゃいました。バブルが始まりかかるころで、何億もの相続税がきました。現金預金の相続はほとんどありません。 土地を売ろうにも上物(うわもの)のアパートや長屋が建っていて、人が沢山住んでいました。このような状態で土地建物を売っても二束三文に買いたたかれてしまいます。とても相続税を支払えるだけの現金は生み出せません。先祖代々の土地を失いたくないので物納も考えたくありません。 私はストレートな発想をしました。入居者全員に出ていただき、長屋やアパートを取り壊し、跡地にゼネコンと共同で等価交換方式の賃貸マンションを建築し、依頼者がマンション賃貸業を行えばよいのではないかと考えたのです。 そして、建ち上がったマンションと土地を担保に銀行から借入を行って相続税を支払い、新築マンションの賃料収入で20年間かけて銀行借入を完済する方式を組立てました。 アパートや長屋の方々に立ち退いていただくに当たり、ある程度の立退料も仕方がないと割り切りました。それからというもの、来る日も来る日も立ち退き交渉を行い幸運にも成功しました。 立ち退き交渉と並行して、ゼネコンと建築請負契約及び等価交換契約を締結し、マンション竣工と同時に銀行から数億を借り入れて税金を支払いました。 賃貸マンションの建築で依頼者の生活設計も十分にできました。 灼熱のバブル熱に世の中が沸きかえる、ほんの少し前の出来事でした。
7 不動産業者
世の中には様々な商品がありますが、もっとも値の張る商品の代表例が不動産です。通常、不動産売買をするには、仲介業者のお世話になりますが、一つ不思議に思うことがあります。 世の中の最高レベルの高額商品である不動産売買に携わる業者に対し、世間は高額商品にふさわしい信頼感を寄せているか否かです。 時々、仲介業者や不動産販売会社のことを、不動産屋と呼び捨て風に呼ぶ方を見かけますが、その言葉の響きには、どこか警戒心や、信頼信用と相反するニュアンスを感じる時があります。 昔から原野商法や詐欺まがいの不動産販売による消費者被害(不動産が高額商品なので、一度被害がでると損害が極端に大きくなります)が後を絶ちませんので、世間が不動産業に対して警戒心を持つようになってしまった一面があります。 しかし、不動産を売ったり買ったりするのに、嫌がらずにとことん物件選びにつきあってくれたり、物件としての良い悪いをしっかり伝えてくれる方たちもいます。不動産売買にあたっては、このような信頼できる業者を選ぶことが非常に大切となります。 彼らがどのようにして、売り情報、買い情報をたぐり寄せるのか興味深いところです。不動産流通の世界は、すぐれて情報社会ですが、その情報はインターネットに代表されるデジタル情報だけではなく、極めて人間臭いアナログ情報にも依存しています。 例えば、事情があって秘密裡に売却したい不動産所有者、現金の一括払いで購入できる資金力を有した買主候補、急いで節税物件を購入したいので割高でも良いから適当な物件を探してくれと求めてくる買主候補など、このような売主、買主情報はまさに個人情報として閉ざされた人間関係の中でしか受発信されません。
8 不動産取引が難しい理由
私は信頼できる何人かの不動産業者を知っていますが、その彼らですらトラブルと無縁ではありません。不動産という商品が、目で見えるはっきりした商品のようでありながら、実はそうではないということ、商品としての不動産の品質、性能評価が大変難しいことがトラブルの原因となります。 不動産の品質、性能評価には、その不動産をめぐる権利関係がどうなっているか、関係する法規でどのような規制が加わっているか、地盤や建物の内部構造に問題はないか、など目に見えないところについても、専門的知識を駆使して沢山のチェックを尽くすことが必要なのです。 不動産をめぐっては建築基準法はいうに及ばず、都市計画法、地方公共団体の条例及び建築協定、その他、様々な規制があります。これらのチェックが不十分であったり、思い違いがあったりすると、取引の当事者が抱いていた期待と結果の間に大きな食い違いを生じ、トラブルに発展します。 また売り手と買い手との間で、商品としての不動産に対する期待感や満足感においても思わぬ食い違いを生じてしまうことがあります。 安すぎた、高すぎた、という価格に関する問題もあれば、住んで使ってみて快適かどうかなどの満足が満たされず我慢ができなくなって紛争になることもあります。 さらに不動産売買には税金問題が伴います。仲介業者に尋ねると親切に説明してくれる人もいますが、彼らは税金の専門家ではありません。必ず税理士さんに尋ねてください。仲介業者の行った税金の説明に誤りがあって後日紛争となったケースもあります。
9 まとめ
今ではネットで不動産情報が沢山流れていますから、消費者の学習精度は大変高まっているようですが、しかし、それでも想定外の事態があり得ます。 仲介業者に案内された物件に惚れ込んだり(冷静になって検討すると気がついたり見えてくることが沢山あります)、高い値を付けてくれた客にあたってラッキーと有頂天にならず(支払い能力に問題があったり、あとで条件変更を言い出されたりする面倒な買い手候補のこともあります)、慎重なうえにも慎重に取り組んでください。 |