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1 会社経営の天国と地獄
中・小・零細の会社経営者の方々から会社行き詰まりの相談を受けてきました。どちらの方々も人知れず大変な苦労をしていました。特に、長い期間にわたってお金の苦労をされてきたことが共通です。
会社経営は規模の大小を問わず、どの場合も、絶えず失敗の恐怖と背中合せに、成功の栄光を夢見て邁進する一大チャレンジです(別稿の「会社経営と顧問弁護士」の1頁をご覧下さい)。
ひとたび会社経営を始めたら、事業譲渡などは例外で、おおかたの場合、途中で止めることはできません。自転車に乗って走っているようなもので止まったら倒れます。だから経営者は最後まで必死に会社の継続にしがみつきます。
会社の倒産は、即、自分と家族の社会的な死に思えてしまうのでしょう。会社の経営に追いつめられた社長の心理はもはや正常な判断を下せない状態になっていることもあります。
社長となって会社経営に乗り出すことは勇気なくして不可能な大冒険です。今まで、色々な経営者とめぐり会いました。
借金地獄と売り上げ低下の苦しみに耐えて復活し、自社ビルをもち、後継者の目鼻も立つまでになった、再起に成功した経営者。
数百億の借財を抱えながら、その整理に目処をつけ新しい事業を立ち上げ、年商数百億のグループ企業を作り上げた鉄人経営者。
嵐のような会社倒産劇の後、幸にも新しい職場を得て重役にまでなった幸運な方。
会社の倒産整理後は静かな生活に落ち着き、経営者時代のお金の苦しみから解放され、質素であっても不安のない生活の有り難さを噛みしめている方。
会社倒産に悲観して亡くなられた誠にお気の毒な方、さいわい一命を取り止めてひっそりと暮らしておられる傷心の方。
会社倒産のいろいろな顛末を体験するにつれて、会社経営が如何に過酷で非情な戦いであるかを思い知らされます。
2 資金繰り地獄
その苦しさは資金繰り地獄をのたうち回った経営者にしか分かりません。
資金繰り地獄はあり地獄と同じで落ちたら最後、はい上がることは不可能、奈落の底に吸い込まれるまで死力を尽くしてはい出る苦労を繰り返す異常な世界です。
明日の支払い資金確保、明日の支払いジャンプの了解とりつけに迫られ、断崖絶壁に追いつめられた経営者は暴走します。
嘘、泣き落とし、強がり、あれやこれやの手を使い相手を騙して金を借りる、連帯保証人になってもらう、支払いを延ばしてもらうなどは朝飯前、暴力団を騙して危険な金まで引っ張ってしまう凄さです。
明日に何の展望もないまま、今日一日を乗り切るだけのため、悪魔に魂を売り渡したとしか思えないハチャメチャな断末魔の資金繰りです。
目前の資金繰りに奔走し、今日の支払延期交渉が終わるや、ー瞬の安堵もつかの間、すぐまた明日から次の資金繰りに追われ、倒れるまで続く資金繰り地獄です。
本来の仕事をしている暇などある筈もありません。
会社の経営状態がますます悪化するのは当然です。
取引先に行って頭を下げ、支払いを待ってもらい、金融業者や知人のところに行って嘘をつき一時しのぎの金を借り、善意の知人に嘘を言って連帯保証人になってもらい高利の金を借りたりと、それはそれは、凄まじいまでの暴走ぶりです。
振り返ればもう何年、こんな事を続けて来たのだろうか、よく今まで神経がもったものだと、妙な感心をさせられてしまう経営者に何人もお目にかかりました。
事態がここまで悪化していなくても、資金繰りの悪化が歴然としていて改善の方策が見あたらず、近い将来の危機状態を心配しながらも無為に日を過ごす経営者は、結局、同じ顛末を迎えます。
3 もっと早く来てくれればよかったのに
行き詰まった会社経営者の相談を受けるたびに、このような苦い思いを何度もしました。
お金にできるものは売り尽くし全て現金に換えて会社につぎ込み、借りられるところは暴力金融にまで手を出して借り尽くし、もはや何の手だてもなくなってから相談に来られたのでは、流石に手の打ちようがありません。
会社がここまで痛む前に、現金や換金化できる資産がまだ残っているうちに相談に来てくだされば、工夫の余地はあったかもしれないのにと、悔やまれるケースが沢山ありました。
4 資金繰り難の原因
資金繰り難の原因はいろいろありますので、大ざっぱに整理してみます。
(1) 絶えず支払いが先行して集金が後回しになる
(2) 営業がうまくいかず売り上げが足らない
(3) 経費過多の体質になっている
(4) 過去の負債が大きく、その支払いが資金繰りを圧迫している
(5) 売掛金が焦げ付いてしまった
(6) 銀行から借入金の折り返しに応じてもらえず一括返済を迫られた
(7) 利益率が低かったり、逆ざや状態の商売を続けている
大方の場合は以上の複合要因によって資金繰り難に陥っています。
5 何か手だては残っていないのか
しかし、実情を分析すると資金繰りは破綻しているが、まだ手の打てる余地が残っている場合もあります。
(1) 会社の営業利益は出ている
(2) 不動産や預貯金、有価証券等の資産が有効活用されていない
(3) 経費を切りつめる余地がある
(4) 支払いを延ばしてもらえる余地がある
(5) 銀行と返済条件の緩和について交渉する余地がある
(6) 不採算部門を切り離し収益部門だけを守ればやって行かれる
(7) 時間さえあれば、いま打っている施策の結果がでてくる(だから今しばらく会社継続の時間が欲しい)
会社がいよいよ駄目になるまでには、このような時期があるものです。
6 どうすれば良いのかわからない
手だてが見付かったとしても、
(1) 不採算部門の切り離しはどのようにしたらよいのか
(2) 銀行との交渉は誰がどのようにするのか、信用不安に繋がる話を銀行にしたら即時全額返済を求められてしまうのではないか
(3) 仕入先にはどのような説明をするのか、話をした瞬間に仕入れが不可能になってしまわないか
(4) 不動産、預貯金、有価証券の有効活用といっても、どのようにしたらよいのか
(5) 経費、とりわけ人件費を詰めていったら雇用不安が起きて仕事にならなくなってしまう
等々を考えると、経営者としては、なかなか動きに結びつきません。
7 荒療治を一刻も早く開始する勇気
現実を振り返れば、分かっていたけれど、やりようがなかったと弁解したくなるのが人情です。しかし今日の経営悪化を招いたのは、まさにこのような迷い、躊躇、弱気であり、問題の先送りだったのです。
現実を直視して、やらなければいけないことは、どんな困難を乗り越えてでも、すぐにやることです。それが会社経営者のつとめです。
そのうち何とかなるだろうと、問題を先送りにしても、期待するように都合の良いことが起きた例がありません。問題を先送りすることによって、倒産の恐怖から目をそらしているだけです。
会社破綻という現実から目をそらし、何も手を打たなければ、結局は、倒産の事実を社員や取引先に伝えなくてはならない運命の日を迎えることになります。
このままでは倒産が避けられないと判断したなら、倒産覚悟の荒療治をいち早く始めるべきです。確かに荒療治は倒産を早めるかもしれません。
しかし、倒産回避のただ一つの方法が会社の荒療治であれば、躊躇なく着手すべきことは当然です。会社経営が窮地に陥った時ほど、経営者に勇気の求められる時はありません。
8 相談先
行き詰まった会社の相談はどこへ持ち込んだらいいのでしょうか。
経営コンサルタント、税理士、公認会計士、弁護士、いろいろ考えられますが、トータルの指揮官は弁護士がいいように思います。
但し、これには前提があります。
財務、経理、営業、人事など会社の運営経営に通じていること、事業譲渡などの手法を持っていること、銀行や税務署、仕入れ先などの債権者と折衝ができること、このような特別のスキルをもった弁護士であることです。
このような弁護士に出会えれば、悩み抜いた会社経営者は、地獄に初めて味方を得た心地になり、勇気と知恵を回復できるはずです。
ところで、このようなスキルのある弁護士かどうかは、とりあえず会社の3期分の決算書を持って弁護士に会い、会社の実情を話し、どのような分析と処方箋が出てくるかを聞いてみれば、見当がつきます。
9 それでも駄目な場合
いろいろ検討してみても、もはや再生不可能という気の毒なケースもあります。その場合は会社経営の幕引きをどのようにするかです。
会社倒産によって社員や取引先、銀行や仕入先、連帯保証人や担保を借りた親戚や友人、そして家族に大変な迷惑と心配をかけてしまいます。
あちらこちらから、猛烈な非難攻撃が来るでしょう。不安と恐怖、申し訳ないという気持ち、それやこれやで、どこかに逃げ出したくなります。死んでお詫びをしようと経営者が思い詰めてしまう極端な場合もあります。
しかし、逃げてはいけません。全てを放り出して失踪したり、死の誘惑に乗ることは経営者として卑怯、無責任以外のなにものでもありません。残された家族に悲しみと恐怖の追い打ちをかけるだけです。
勇気をもって幕引きに立ち向かうことが経営者の最後の大仕事です。弁護士に相談して破産手続き等の措置を講じ、きちんと後始末をしてください。あなたの相談した弁護士が、きっと力になってくれます。
それにしても経営者は、会社倒産の始末をつけた後に、どのような生活がまっているのか、食べていけるのか、迷惑をかけた方々から責め続けられるのではないか、などといろいろ想像し、不安と絶望にとりつかれます。
しかし、これは実に当然のことで、その経営者は今まさに大混乱のさなかにあるのですから仕方ありません。
その時こそ、不安から守られ、静かに、じっくり、考える時間と頼りになる相談相手が必要です。相談に乗ってくれた力ある弁護士が、そのことを心得て、きっと安心できる時間を確保し、冷静な判断や勇気ある決断を可能にしてくれることと思います。
逃げ出さず、問題解決に立ち向かうことです。逃げれば逃げる程、恐怖心は大きくなります。
逆に、問題に立ち向かう勇気を持てば、不安に耐えられ、次第に平常心を取り戻し、冷静に考えることができるようになります。
だから、会社倒産を抱えても経営者は逃げないで、責任を全うして欲しいのです。
会社の行きずまりに悩んでおられる方、諦めないで下さい。
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