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1 会社経営者

沢山の会社経営者とおつき合いをいただき、顧問弁護士として働かせていただいたことを振り返り、顧問弁護士の役割、会社にとって顧問弁護士が如何なる理由で必要なのか、などを考えてみました。

ご縁をいただいた会社経営者は、どなたも例外なく記憶にくっきりと焼き付く、大変に濃い個性を持っていらっしゃいます。

人(人の採用、訓練、配置など)、物(製品やサービスを造りだし、それを支える技術を開発)、金(会社の運営発展に必要な資金の調達、時には倒産回避の必死な資金繰り)、の手配を抜かりなく行い、情報に対する鋭い目配りを怠らず、会社を前に前にと牽引して行く会社経営者の力強さたるや機関車の爆走にも似て、誰もが真似できる技とは到底思えません。

成功している会社経営者の力は神業に思えてしまいますが、同時に会社経営とは何と大変な仕事だろうかと驚嘆します。

経営の成功と失敗、やり方に対する批判と共感など、社員、取引先そして世間の会社経営者に対する評価は一様ではありませんが、それにしても、大方の会社経営者の方々は実によく頑張っておられます。

会社経営者が、複雑精妙な会社というマシーンを、故障なく最適状態で運転し、取引先を増やし、利益を上げ、社員を養い、そして会社の人的物的インフラの強化に努め、将来の発展に備えた資金や技術の蓄積を怠らないそのスピード感たるやF1で爆走するドライバーにも見えます(中には、くたびれ切ってしまった会社経営者もいらっしゃいますが)。

成功すれば世間から喝采を受け、サラリーマン生活では手の届かない贅沢や優雅な生活も可能となりますが、失敗すれば丸裸になって、石もて追われる哀れな身となり、その辛さに耐えられず自死という悲劇につながることもあります。

会社経営に成功した場合の会社経営者の栄耀栄華はおよそ想像がつくと思いますので(もっとも賢い成功者は決して栄耀栄華に溺れません)、ここでは失敗した場合の悲惨な様子をお伝えしておきます。

通常の倒産では、そこに至るまでの間に、個人の預貯金や不動産その他一切の財産が会社経営に注ぎ込まれるのが常ですから、倒産と共に、それこそ、文字通り丸裸となった上に多額の負債を背負うことになります。

取引先、銀行、社員などから支払を求めて厳しく責め立てられます。資金調達のために親、兄弟姉妹、子供たち、親戚、知人に連帯保証人となってもらっていれば、その人たちに支払い請求が飛んでいきます(下記※参照)ので、大変な迷惑をかけてしまいます。

当然のことですが、それらの人たちから何とかしろと怒りや追及が起きます。

倒産ともなれば単に金銭的に丸裸になるにとどまらず、関係者から雨あられの憎悪に満ちた追及、攻撃、非難中傷が飛んできて、失敗した会社経営者は存在そのものを否定されるような目にさえあいます。

夫婦離婚、一家離散なども当たり前のように起きてしまいます。

会社経営とは誠に天国と地獄が背中合わせの世界です。

いやはや会社経営とは、その使命と責任を自覚すればするほど、実に大変な仕事であり、大きな危険を伴う壮大なチャレンジなのです。

※現在、民法(債権法)の改正が検討されており、2015年に改正案が国会で審議されることも予想され、その中には保証制度の大幅な改正も含まれています。改正案が成立すれば保証地獄も随分改善されると思われますが、既に締結されている連帯保証契約等の証人の責任にどのような影響が生じてくるか不明です。それにしても会社倒産によって保証人に迷惑をかけてしまう事態は避けられません。

2 会社経営者と顧問弁護士

会社経営をこのように深刻で厳しいものだと自覚し、だからこそ内容のよい立派な会社を作ろうと頑張っている会社経営者、だがしかし孤独感と迷いを避けることができない経営者にとって、遠慮や気取りなしに本音で相談し意見を聞き元気や勇気をもたらしてくれるのが、顧問弁護士なのです。

私はこんなふうに顧問弁護士というものを考えています。

3 会社経営と法律、契約

会社に関係する事務や業務をざっと俯瞰してみます。

(1)会社の設立、(2)人事・労務、(3)総務、(4)財務と会計、(5)製造、(6)技術開発、(7)営業、(8)売掛金等の債権管理、(9)買掛金等の支払い管理、(10) M&Aや事業譲渡、(11)経営企画、(12)危機管理、(13)倒産整理

これら全てのことは、民法や会社法などの関連法規、業務の安全性、取引の公正、消費者保護などに関する関連法規、事業再編の促進とルール化を定めた法令など各種の関連法規によって規律されています。

以上のことに関連して、もっとも大切なのが契約です。契約書として書面に作成されたものだけが契約ではありません。取引等の関係が発生すれば、書面化されていなくとも、そこにはおのずと約束事というものが生まれているわけですから(互いに何らかの了解がなければ取引は始まりません)、これも契約なのです。ただし、書面がないだけに、いざとなると、その内容をめぐって喧々諤々の議論になります。

会社業務が小規模で手探りの間は、余り法律や契約のことが現実の問題として意識されることはありませんが、業務が発展、拡大してくると法律や契約の問題が現実味を帯びてきます。

このように申しましても、日々困難な事態に悪戦苦闘していらっしゃる会社経営者からは、会社を維持することが精一杯で、とても関係法規や契約といった観点から会社を見直す余裕もないし、手も回らないという現場の声が聞こえてきそうです。

中小企業の経営者が直面する厳しい経営環境からすれば、誠にその通りかもしれません。

しかしここで問われるのは、今日、明日の現実だけを見据えてものを考えるのか、それとも、自分が実現したいと願っている理想の会社像をもとに、今を考え、将来を計画するのか、会社経営者としてどちらの道を進むのかということです。

前者であれば会社と法律の関係など、今はかまっていられないことになります。

しかし後者であれば、今から会社経営と法律、契約の関係を考えておく必要があります。

会社経営にとって法律と契約を意識し顧問弁護士が必要か否かの答えは、結局、経営者としてどのような内容の会社を作り出すことを目指しているのか、自らの心構え如何によって異なります。

内容のよい会社、社会に信頼される会社、社員と顧客に対し胸を張れる会社を作り上げるには、経営者として法律と契約をしっかり意識しなければならず、日頃からその助言と指導を得るためには顧問弁護士が必要となってくる、と言えます。

4 望ましい顧問弁護士

高度の専門性(知的財産権、国際的法律問題、大規模なM&A等)が要求される場合は、その分野の専門弁護士でなければ顧問弁護士はつとまりません。

しかし、中小零細企業の顧問弁護士は、どちらかと言えば、専門性もさることながら、幅広い知見と柔軟な思考で、問われた問題を探求心・研究心旺盛に突き詰め、明晰な頭脳で解決の処方を見いだし、積極、果敢に実践していくタイプの弁護士が望ましいです。

会社経営者がどうしようかと悩む問題に対し、すぐさま良いとか悪いとか軽々しい判断を下す弁護士は感心しません。問われた問題に対する回答を後回しにして、回答に必要な事情をとことん聞き出す、掘り下げる、暴き出す位の勢いで問題の背景をなす事実関係や根本原因に肉薄しようとする探求心こそが大切です。

事実関係をおろそかにしない弁護士であれば、えぐり出した事実関係を踏まえた分析、リスクの計量、方針の策定などについても適切な判断と助言が期待できます。

無責任な弁護士は論外ですが、整理の悪い弁護士も要注意です。ここで言う整理とは、頭の整理から自分のデスク周りの整理まですべてに渡って言えることです。まれにはデスク周りがとんでもなく散らかりっぱなしでも仕事のよくできる弁護士もいますが、これは例外です。

顧問弁護士は、会社経営者が判断を下すのに有益な思考過程を支援するのが役割なので、自分なりの意見や考えを曖昧にしないで具体的に述べる必要があります。それこそが会社経営者が顧問弁護士に求めているものです。

自分の積極的な意見具申がまずい事態を招く心配から、消極的で無難な意見しか述べない顧問弁護士は役に立ちません。また逆に事実の探求や分析を疎かにしてやたらに強気の発言をする顧問弁護士は危険です。

こうしてみますと弁護士は常日頃から、いろいろなことに興味や関心を持って、物事を広く深く考え尽くす習慣を磨くことが大切だということになります。

会社経営と顧問弁護士についてご説明してきましたが、好ましくない弁護士のタイプを一番最後にまとめてみます。

5 顧問弁護士とのつき合い方

顧問弁護士は、会社経営者にとって自分の会社を立派に見せるためのアクセサリーでもなければ、世間や交渉相手に対し自社の強さを見せつけるための虚仮威しでもありません。このように分かり切ったことをいうのは、顧問弁護士の活用がなされず、形ばかりの存在になっている例があるからです。

「顧問料が高く、それでいて何も起きない、何もしなくて済む顧問会社が、一番いい顧問先だ。」と弁護士仲間では冗談めかして言われることがあります。

勿論これは冗談ですが、しかし、折角、顧問弁護士を持ちながら活用していない会社、顧問弁護士でありながら役に立っていない弁護士の存在を暗示しているような笑い話です。

会社と顧問弁護士との関わり方は、何かトラブルが発生した緊急時におけるものと、特段なにも起きていない平時(普段)における関わりの二つがあります。

緊急時の場合、顧問弁護士として常日頃から会社のことが分かっていれば話は早く、周到な方針で迅速な対処が可能となりますから、普段から会社経営者と顧問弁護士の間で充実した意思疎通を図っておくことが何より大切です。

では普段における顧問弁護士と会社経営者との望ましい関わりはどうなるでしょうか。

顧問弁護士には会社のこと、ご自分のことを、とことん知り尽くしてもらっておくことが大切です。会社経営の要素は先ほども述べましたが人事、労務、総務、財務、経理、営業、企画開発など様々な方面にわたりますが、なるべく広範囲に知っておいてもらうことが有益です。

この点では、顧問弁護士にも会社という社会的生き物に対する広く深い理解が必要なので、会社というものを学ぼうとしない弁護士は顧問弁護士にふさわしくありません。

もっとも顧問弁護士といえども話すことができない会社の秘密もありましょうが、その辺は臨機応変に考えてください。但し、不正や犯罪に繋がるような秘密を持つことは絶対に駄目です。

ご自分のことについては経歴、家族関係、人生設計、会社経営に対する思い、会社の将来設計なども顧問弁護士にとって大切な情報です。

個々の営業や契約上のトラブルであれば、その範囲内で考えて答えを出せますが、会社の方向性を決めるような問題だとか、会社の浮沈をかけて取り組まなければならない超重大問題になりますと、会社経営者の人生と重ね合わせて物事を考え、判断しなければならない面があるからです。

これらの情報を的確、適切に顧問弁護士にインプットしておくことが大切なのですが、会社経営者は、上手にこのインプット作業ができるでしょうか。実は簡単なことではありません。

このインプット作業ができるか否かは、経営者の人格、識見、表現力にかかってきますし、どれだけ会社と自分の人生について真剣かつ具体的に絶えず思索しているかにかかってくるからです。

顧問弁護士と有益な交わりができるかどうかは、それを実現できるだけの中身が経営者自身に備わっているか否かによって異なります。

顧問弁護士から有益な知識や助言・情報を引き出すためには経営者自身の適切な情報発信と、鋭敏な感受性で知識や助言・情報のキャッチが必要となります。上手なキャッチボールにより中身の濃い人間関係が成り立つのと同じです。

もっとも会社経営者と顧問弁護士の関係は、今述べてきたようにお互いが相当に力量を備えた者同士に限るものではありません。互いに手探り状態の時期(会社経営者としても弁護士としても互いに駆け出しの頃)に交流を始め、その深化とともに弁護士は法律専門家としての力を身に付け、会社経営者は経営のベテランに成長して行くケースもあります。

あるいは、顧問弁護士と会社経営者のいずれか一方が先行して力を備えていて、もう一方がその触発を受けながら成長し、いつしか互いに啓発し合い、役立つ関係になる場合もあります。

このように会社経営者と顧問弁護士の関係、有り様は単純一様ではありません。

会社経営者は、自分の年齢、経験、会社の規模、現時点における顧問弁護士へのニーズなどを考え、顧問弁護士として大家が望ましいのか、中堅どころがふさわしいのか、駆け出しでもやる気と誠意のある弁護士で足りるのかを見極める必要があります。

会社経営者と顧問弁護士との会話は一方通行のものであってはならず、会話を通じて相手を知り、自分を知ってもらうことが重要であり、絶えず新しい気づきや発見を手に入れることが必要です。

6 依頼したくない弁護士のタイプ

(1) 話をろくに聞こうとしない、事案の内容を説明しても疑問や質問が返ってこない、そのために事案の理解や把握が少しも深まらない弁護士。

(2) 予断と偏見で人の話を聞き、自分の考えや理解を押し付け、法律論など専門的な話を、やたらに小難しく喋りたがる弁護士。

(3) 理解が悪い、勘が悪い、思考に柔軟性がない、法律の観点からしか物事が見えず、社会生活やビジネスの実態、実情を踏まえた理解や発想のできない視野狭窄な弁護士。

(4) 解決までの道筋、解決内容、それまでの所要時間、などについて見通しを示そうと努力しない弁護士。

(5) 二言目には法律がこうなっている、こんな判例があると専門領域の話ばかりして、依頼者の希望を実現しようと創意工夫の努力をする様子が見えない弁護士。

(6) 弁護士を偉い者だと勘違いし、不親切で忍耐力がなく怒りっぽい弁護士。

(7) 時間、約束、資料の管理など全てにおいてだらしない弁護士。

(8) しゃべり方や態度が妙に馴れ馴れしく、立ち居振る舞い、服装、言葉遣いに不潔感がある弁護士。

(9) 法律の解釈、運用が稚拙な弁護士。

(10) 仕事が遅く、説明等を紙に書いてくれようとしない弁護士。

(11) 弁護士費用の額と支払時期についてきちんと説明しないか、あるいは値頃感に反する極端な費用設定をする弁護士。

好ましくない弁護士のタイプを整理しました。ここに例示した弁護士と正反対な弁護士が好ましい弁護士ということになります。

それにしても個々の弁護士にとっては言うは易く実行は困難な内容を沢山書いてしまいましたので、ここまでの注文が付くと弁護士も大変です。