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1 騙される高齢者
認知症の進んだ高齢者が、大量の健康食品を購入したり、高額なリフォーム契約を締結した、あるいは自宅を売却する契約を締結して手付け金を受け取ってしまったなど、判断能力が衰えた高齢者をめぐって、色々なトラブルが起きています。
消費者保護の関連法規がありますので、これらの規定で判断能力の衰えた高齢者の救済を図る道も考えられますが、ここではそのような高齢者が結んでしまった契約は、認知症を理由に無効だと言えるかどうかを考えてみます。
2 意思能力の欠如
認知症を理由に契約を無効に出来ないかという問題は、別稿の「高齢者の遺言」で述べたのと同じような問題です。
ご本人の認知能力の低下が進み、何がなんだかよく理解もできないまま、他人から言われるに任せて契約をしてしまった場合であれば、自分にとっての利害得失を判断できていないのですから、もはやご本人に契約を守れと強制することは酷です。
他方、そのような老人の状況を知りつつ商品やサービスを売りつけた相手のやり方は明らかに不正であり許せませんから、彼らの利益や都合に配慮すべき余地はなく、徹底的に追及されて当然です。
社会生活を送る上で、「契約は守られなければならない」、という大命題があります。しかしこの命題が当てはまるのは自らの利害得失を適切に考え、自分の利益を守ることのできる健全な認識、判断力を持っている人であり、重い認知症にかかって自己防衛のできなくなった人には当てはまりません。
認知能力が低下しており、物事の適切な理解、判断が出来ず、人の言うなりに契約もすれば印鑑もついてしまう状態であったなら、それは当のご本人がもはや取引の当事者になることのできる能力を持ち合わせていないということであり、法律上は意思無能力者として扱われ、その人が行った取引は無効となります。
3 公序良俗違反
締結した取引契約の内容が、当のお年寄りにとって一方的に著しく不利益であり、敢えてそのような契約を締結する動機、必然性も皆無であることが一目瞭然なのに、それを承知で(それに乗じて)取引しようとする業者は、年寄りの無知・無思慮に乗じて不正な利益を図ろうとする反社会的な悪徳業者で、許すべきではありません。
裁判所は思慮分別を欠いて取引をしてしまった気の毒なお年寄りの保護を図り、反社会的な悪徳業者に不正な利益を与えないため、そのような業者に対しては、公序良俗違反という法理をつかって厳しく臨み、取引を無効と判断することもあります。
4 尽きることのない悪徳業者
新聞、テレビでは消費者被害の報じられない日は無いくらいで、繰り返し催眠商法、詐欺商法などの反社会的な悪徳業者の跳梁跋扈が伝えられます。とりわけ高齢者を狙った騙し商法の横行は目に余ります。被害にあったと思ったら直ぐさま警察に連絡すると共に、弁護士にも相談して下さい。
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