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1 様々な離婚
別れたい人、別れたくない人、色々です。
(1) 離婚を勝ち取る動かぬ証拠とするため、あるいは不倫相手に対する慰謝料請求の証拠とするため、夫の不倫現場を押さえることを興信所に依頼したり、夫の車にGPSを仕込んだりする妻。不倫現場を押さえられてうろたえる夫。
(2) 別れたくとも、その後の生活が心配で別れられない妻。長年にわたる我慢や怒りが鬱積して心身の健康をそこね、人生に絶望する妻。
(3) 相手から財産を出来るだけ沢山とって離婚することを願望する妻。毎月の給料、退職金、社内積み立て金や持株会の株式、そして預貯金などあらゆる夫の財産を探し回る妻。
(4) できるだけお金を払わず、安上がりに別れたい夫。必死に預貯金や株式などの財産を隠し、会社から受け取った退職金も隠しきって絶対にそのあり場所を妻に教えない夫。
(5) お互いに別れることは承知していながら、子供の奪い合いとなってしまった夫婦。ある日突然、妻が子供を連れて家を出てしまい、会社から帰宅したら自宅がもぬけの殻で呆然とする夫。
路上や幼稚園で子供を相手から取り上げようとして修羅場を演ずる関係者(誘拐罪になる場合があります・最高裁から全国の裁判所宛で判決に基づいて子供を保護者のもとから引き離しができるのは自宅に限ると通達されました。)
(6) 夫の不倫相手に脅しまがいの嫌がらせをして応戦、慰謝料請求の裁判を起こす妻。(不倫相手の女性はといえば、別れる別れるといいながら、ずるずるつき合っていたら、ある日、突然、弁護士から通知が来て慰謝料を請求されることになりかねない)
(7) 適当な事を言って異性とのアバンチュールを楽しんでいたら妻に見つかってしまい、不倫相手と妻の双方から責め立てられ、きりきり舞いする夫。
一口に離婚と申しましても、実に多彩です。
2 結婚の光と影
配偶者の不倫や裏切りに悩まされ、誰にも言えずに苦しんで体調を崩し、心療内科に通って、睡眠導入剤、抗うつ剤を処方してもらうようになってしまった人。それでも耐えられず、苦しみの挙げ句、手首を切ったり多量の睡眠薬を飲んだりしてしまう女性。
あれ程バラ色の夢を見て、両親や周囲から祝福され結婚したのに、その結果は、かくも無惨で非情な世界だったのか、結婚さえしていなければ、このように不幸な目に会わなくてすんだのにと嘆く声が聞こえるようです。
しかしそれでも毎日、新たな夫婦が誕生し、人々は未知との遭遇である結婚の世界に足を踏み入れていきます。
結婚がもたらす恩恵を疑わない人々もいれば、結婚を呪う人々もいます。結婚した二人の織りなす人生の光と陰が交錯するのが離婚相談です。
3 弁護士の立ち位置
離婚の相談にのる弁護士は、Aさんからの相談とBさんからの場合で、まったく逆のことを考えたり主張することもあります。
不倫が見つかってしまった夫からの相談では、例えば夫の弁解はこんな風になります。
夫婦関係はすでに破綻し、長い年月、夫婦は同居する赤の他人であった。いまさら不倫だの精神的な苦痛を受けただのと非難されるような夫婦の絆も共同生活の実態も、とうの昔になくなっている(裁判所が納得するかどうかは別ですが)。
一方不倫に苦しむ妻からの相談では、夫に対する攻撃はこのようになります。
結婚をきっかけに家庭にはいり家事育児に専念し、一生懸命家庭を守り、夫を支えてきたのに、夫は何一つ協力もしなければ労いの言葉ひとつなく、身勝手、不誠実、裏切りをくり返してきた(裁判所が100%共感してくれるかどうかは別ですが)。
客観的に物事を見ることの重要性が言われますが、弁護士は裁判官ではありませんから、依頼者の立場で物事を見たり聞いたりして、その思い入れに共感しながら判断します。その限りでは裁判官のような客観性はありません。
もっとも、見通しを立てる時はできる限り裁判官の発想と考え方を想定して物事を考えます。このような意味で言えば弁護士は複眼思考ということになります。
しかし、この使い分けは時に難しいことがあります。と申しますのは、裁判官的な観点で物事を見たり考えたりして、そのまま依頼者との会話に持ち込むと、依頼者は弁護士が自分に寄り添って考えてくれていないと不満に感じるからです。
物事を歪曲して理解したり、依頼者に迎合するような事実の把握は禁物ですが、しかし弁護士が依頼者の側の人間であるという立場性は厳然たる事実であり、あくまでも出来事を依頼者の側から見ていくことが求められます。
4 弁護士の仕事の進め方
まず依頼者の話をよくお聞きします。夫婦の間に何があったのか、夫婦家庭生活がどのようなものであったのか、共感をもってイメージをふくらませながら、さらに話をうかがい、問題点の掘り下げと把握を進め、事案の全体像を整理します。
離婚できるケースか否か、離婚をいやがる相手とどのように離婚の話を進めていくのか、あるいは逆に、離婚したくない依頼者のために離婚を回避できるどんな方策があるか、など依頼者のご要望に沿って解決の可能性を考えます。
そして、離婚に進むことになれば、慰謝料、財産分与、離婚までの婚姻費用の請求、子供については親権、監護権を両親のどちらがもつのか、子供の養育費は幾らにするのか、年金分割の割合をどうするのか、などの検討をします。
相手との交渉は、直接の話し合いであったり、裁判所の調停であったりします。直接の交渉で解決まで進めるケースは少なく、結局のところ調停となることが多いです。
離婚は、結婚生活の清算であり、人生の新たな再出発です。当初は不安と怒りばかりで方針の定まらなかった女性が、離婚交渉を通じて次第に本来の自分を取り戻し、自立心を回復、離婚後をたくましく生きて行く姿を何度もお見かけしました。小さな子供を抱えての離婚で不安ばかりでしたが、夫の暴力から解放されたことでお金は大変でも、心が楽になったと喜んで下さった女性もおられました。
それに引きかえ、妻が本気で離婚を言い出した途端にあわてる夫を見て、意外と男性がひ弱に感じたこともあります。妻の忍耐が限界に達して爆発したときでさえ、夫は心底、誠実一途に謝罪すれば妻は許してくれると、どこか甘えが残るようです。しかし長年にわたって我慢を強いられてきた妻の心の凍結状態は地下何メートルにもわたるツンドラであり、もやは如何なる夫の謝罪でも溶けることはありません。
つくづく思います。妻の忍耐を侮ってはいけないと。
話を本題に戻しますが、離婚交渉で金銭の支払をさせられるのは多くの場合夫側となりますが、それでも、けじめのついたことで新しい生活を積極的にやり直そうとされる前向きな男性もいらっしゃいました。
離婚のご相談をうけて一番うれしいのは、離婚を人生のやり直しのきっかけにしていただけた時です。
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